2017/04/18

このアクシデントにはショパンもびっくり!

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ショパンのピアノ協奏曲第2番を2年前に
ロシア人のカティア・アペキシェヴァさんと演奏した。
カティアは現在ロンドン・ピアノ・フェスティヴァルを主催するが
その彼女が大のチャールズ皇太子のお気に入りピアニストで
2015年に皇太子の御前でイギリス室内管弦楽団と
この第2番を演奏する機会があった。

もともと僕はバレーボールを6年間やっていたのだが
中学生のときに筋トレで苦しい思いをするときなど
決まってこのピアノ協奏曲が頭の中で流れていたものだ。

苦しい時にこんな甘美な音が流れるわけで
その位好きで、もう殆どすべての音が身体に染みついているような感じだった。

だから指揮者になっても
過去に弾いた経験はなくとも
この協奏曲は正に自家薬籠中の物と言う感じだった。

演奏をしながらカティアは僕にこう言った。
「あなた実はピアニストでしょう?」
この言葉を当のカティアが言うくらいだから、
これはしめたものだ。
ショパンのコンチェルトは指揮者泣かせの難しい作品というわけだ。

数々の歴史的な名録音を残したロンドンのKingsway Hallでの練習は
見事な結果だった。
オーケストラもソリストも、そして指揮者も満足する練習なんて
そうそうあることではない。

その夜、我々は自家用車を3時間半ほど運転して
チャールズ皇太子の待つGloucestershire(グロースターシャー)の
フェアフォードの教会に向かった。

翌朝会場に入ると、今はBBC交響楽団に行ってしまったが
ECO(イギリス室内管弦楽団の略称)の舞台責任者のトムが
「ダイスケ、この教会は音響が良いから満足するぞ」
なんて言ってくれて、気分は絶好調。

満場の聴衆を背に
ベートーヴェンの「エグモント」序曲を
ECOが素晴らしい演奏をしてくれた。

教会の中でピアノが背中まで寄り添って置かれていたのは
もちろん知っていたのだが、
ショパンの第2楽章が始まったその時だった。

ふとした拍子に背中がピアノに触れると
突然ピアノが貴賓席に座っておられるチャールズ皇太子に向かって
少しずつ動き出したのだ。
指揮者の私の背中が当たって動いたのか
ストッパーがうまく効かないほどに滑りやすい大理石だったのか。

この誰も予期せぬ咄嗟の状況に
ピアニストのカティアは動くピアノに乗りかかるようにしながら
ピアノを弾き続け
ただの一音もゆるがせにはしない。

それを見た聴衆もチャールズ皇太子も息を飲んで見守りながら
終われば満場の聴衆の拍手喝采。

「ダイスケ、私死ぬかと思ったわ。」と苦笑いのカティアには
流石に謝るしかなかったが、お蔭で聴衆の気分も高揚して
その後に指揮したシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」は
ブラボーの嵐で幕を閉じた。

ショパンの協奏曲。
昔中学生の頃、第1番は弾いてみたが
第2番は難しくて歯が立たなかった。

そんな難しい曲でピアノが滑り出しても
ピアノに馬乗りしながら弾き続けたカティアのど根性とプロ意識。
お蔭で救われた一日となった。

それから2週間ほどして
バッキンガム宮殿から手紙が届いた。

もちろんチャールズ皇太子からだ。
自宅に届くとは夢にも思わなかったその御礼の手紙には
もちろん、このエピソードが忘れられない、と書かれていて
我ながら苦笑ものだったが、
素晴らしい思い出がつまった、
まさに家宝の手紙となったのは
言うまでもない。

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